雪灯り

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 宿の主が困ったような顔をして、だけど何も言わずに立ち去ったところで、私は木戸を開けて道に出た。  見上げれば、天は(くら)く、すでに小さな雪が舞い始めているではないか。 「いやあ、これは早くいかなければなりませんね。先生、あっしはこう見えても足の速さには自信がありまして、ここは一つ、どちらが先に集落に着くか競争といきませんか?」 「いや……」 「じゃあ、よーいのドン」  承諾するとも言っていないのに、背負子(しょいこ)に荷物を満載した男は、私の返事を最後まで聞くこともなく、すたすたと先に行ってしまった。  私の方はと言えば、知らぬ道を早足で歩くことの危険性を承知しているから、特に峠道ともなれば、いつも通りに歩くだけであった。  その古い峠道は、所々修繕されていない箇所が見てとれるが、大きく崩れているわけでもない。道の両脇に鬱蒼(うっそう)とした杉の林があることから、普段は木こりが使っていて、最低限の補修はされているのだろう。  それにしても人がいない。人っ子一人いない。誰一人としてすれ違わないし、薄っすらと積もった雪に残る足跡は、狐か狸のものを除けば一人分だけである。
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