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そうして雪の泥濘の中を一人静かに歩き続けると、やがて一軒の家屋が見えてきた。麓の木賃宿よりも頑健な造りのそれは、屋敷と言っても差し支えない。
すっかり冷えた体を思い出した私は、これは良いと背の低い生け垣から庭に入るも、どうもこの家は様子がおかしい。いや、一見すると何でもない家なのだが、どこか違和感がある。違和感の正体はなんであるのかと、よく観察してみれば、庭に石屋で見るような、石工があれこれ削る前の石柱が、いくつも建ち並んでいることに気が付いた。
けれど、ぶるっと身震いをすれば、それはもうどうでも良いことになっていた。こんな人里離れたところだ。卒塔婆のようにして、先祖を弔う風習でもあるやも知れぬと。
気を取り直した私は、ドンドンと玄関の木戸を強めに叩いて「もし、もし、旅の者ですが、暖を取らせてもらえませんか。もし」と声を張り上げる。
暫くして木戸がそろりと開くと、この頃にしては珍しく、髷を結った白髪の老爺が顔を覗かせた。
「……どちら様でしょうか」
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