雪灯り

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 木炭が爆ぜる音ばかりが聞こえる。  女が髪をかき上げ、木炭を火箸(ひばし)で動かす様子を何とはなしに眺める。  ときおり覗く彼女の白い肌が、その柔らかさが仄暗い空間の中で一際(なま)めかしく見え、私の心をざわめかせる。  無限とも思える時間。  ――柱時計が鳴いた気がして、私は懐中時計の蓋を開けた。 「ところで、谷間(たにあい)の集落に行きたいのですが、どの道を行けばよいでしょうか」 「それでしたら、このまま真っ直ぐ行けばいずれは着くでしょう」 「私はそろそろ出なくちゃあなりません。この礼はいつか必ず」 「どのような御用事があるのか全く想像もできませんが、この空模様の中を行くのはおよしなさい」 「けれど、行かねばならないのです」 「どうしても、今日行かねばならないのですか」 「どうしても、今日行かねばならぬのです」 「でしたら――」  女は傍らの箪笥(たんす)から小さな革袋を取り出すと、囲炉裏の灰の中を火箸(ひばし)で探って、小さな石を二つ、それに放り込んだ。
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