雪灯り

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「この雪の中を行くというのであれば、これをお守り代わりにお持ちになって下さいな。どうにも進退が(きわ)まったときに火打石のように打ち鳴らせば、きっとあなた様の助けになることでしょう」 「お心遣い頂きありがとうございます」  そうして名残惜しい気持ちを払い()けて、いよいよ雪の降る中を進もうとしたとき、あることを思い出した。 「私が来る前、荷物を沢山背負った男がこちらへ見えませんでしたか」 「ええ、確かにそのような男性も見えましたね」 「その男はどうしましたか」 「さあ、どうしたのかしらねえ」  懐中時計は午後一時を指している。  暖を取っている間にも雪が降り止むことはなく、先へ進む下り坂の道は、もうすっかり白くなっていた。  懐に入れた石の温もりを感じながら、それでも杉林の間を歩く。  その間にも雪はどんどん勢いを増していく。  そこに生き物の音はなく、ただ自分だけが音であるかのようだった。  ただ黙々と歩むうちに、やがて下り坂は終わり、道の目印としていた杉林もなくなっていた。  峠ではあれほど大人しかった風も、びょうびょうと吹き荒れ、降る雪も積もった雪もなくまき散らす。
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