雪灯り

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 あの家でため込んだ体温も、今はどれほど残っているだろうか。すでに感覚も分からぬこの身であった。  それでも、谷間の集落で待っている患者のためにも進まねばならぬと、一歩ずつ着実に歩みを進める。  だが、いよいよ風雪は人の力の及ばぬほど強くなり、私の視界を真っ白に遮った。  足を踏み出しても、前に進んでいるのかどうかすら定かではない。  手足の感覚はなくなり、己が存在しているのかも分からなくなった。  そのとき、懐の石がとても温かく感じられ、その存在を思い出した。  震える手で、革袋からなんとか石を取り出して、藁にもすがる思いで、カチ、カチと二回打ち鳴らした。  するとどうだろう。  手の中の石がいっそう温かくなったと思えば、一面真っ白な視界の先に、いくつもの光が見えたのだ。  爛々と輝くそれは、けれど優しく燃え、あれこそが私の進むべき方向だと予感した。  追えども追えども近づかない灯火は、正しく私の希望の光だった。  *  *  * 「いやあ、先生、こんな吹雪の中、大変だったでしょう」 「いえ。それよりも応急処置に間に合って重畳でした」
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