2、顔のない女

2/10
前へ
/127ページ
次へ
 要には今も週に三日、将大の祖母が経営する喫茶店『魔女っ子フラン』で英語を教えてもらっている。  歳も一学年しか違わず、人見知りという共通項も相まって、不思議と気が合った。  要は名で、姓は由利だと知ったのは、出会って一か月以上も経ってからだ。  本人はユリと呼ばれると、女子みたいで嫌なんだと言い訳したが、私は何も知らず、初対面の時からファーストネームで呼ばされていたのだ。  一見真面目そうだが、要には人を食ったようなところがある。   そんなこともあって、いつしか友達のように会話する間柄になっていたが、二人で出歩くのは、今日が初めてだった。 「将大にいに、私のおもり役を押し付けられて災難だったね。ライブ、最後までいたかったんじゃない?」  商社マンの父親を持ち、海外に住んだこともある要に、この駅や、自宅を見られるのは気が進まなかった。  初めて見た私服も、おしゃれで上質なものだ。  男性のわりに色白で、髪も艶やかで、指先まで手入れが行き届いて、まるでイギリスの貴公子みたいだ。  この中途半端に見捨てられたような街に、要の存在は極めて異質だった。 「いいよ、別に。ラップはあまり聴かないし」
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加