2、顔のない女

3/10
前へ
/127ページ
次へ
 父と離婚した後、母は私たち姉妹を連れて伏見の実家に戻った。中学三年生の時だった。  駅舎のすぐ傍を琵琶湖疎水が流れていた。  この水は将大の住む町から流れてきたのだと、落ち込む心を奮い立たせようとしたけど駄目だった。  ごちゃごちゃと林立する建物の隙間から見えた東山が、却って疎外感を増幅させた。私たちは、碁盤の目から弾き出されたのだ。 「やっぱり、大阪より冷えるね」  女性の二人組が、声高に意味の分からない外国語を話しながら、私たちを追い越していった。 「ほんと。もう十一月も末だもんね」  冷たく乾いた風が電線を鳴らして吹きつけた。  誰かの捨てたマスクが飛ばされて、植え込みの柵に引っかかって止まる。  髪を切ったせいで剥き出しになった首筋から寒風が吹き込み、体の芯に震えが走った。  化繊のセーターは、ふわふわとした見た目からは想像できないほど、保温効果に乏しい。 「典ちゃんは俺と話すと関西弁じゃなくなるね」 「そう? 要君が標準語で話すから、つられちゃう。変?」 「大丈夫。京風の標準語だよ」
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加