2、顔のない女

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 要はよくこんなふうに、さらっと真面目な顔で冗談を言う。  師匠には、仕事で舐められるからと、普段から標準語を話すよう言われている。  でも将太の前では関西弁になる。その方が楽だし、自然に話せる。  でも本当は、以前将大に、関西弁の方が可愛いと言われたからだ。  赤信号で立ち止まった。  横断歩道の向かいに建つ、マンションのベランダに明かりが漏れている。  近くの大学に通う学生が住人の殆どを占める、単身者用のマンションだった。  笑いなたら、何気なく見上げた先に、それはいた。  長い髪を、背中にたらした女だった。  並んだ窓の一つに向かって、ぼんやりと立ち尽くしている。  閉め出されたわけではないと、すぐに分かった。  この寒さの中、女は真夏の格好をしていた。 「そういう俺も、こっちへ来てから時々イントネーションが怪しいんだけどね」  女が私に気付く前に、さっと視線を逸らせた。信号が青に変わる。 「確かに。将大にいと喋ってるときでしょ?」 「あの人の影響力ってさ、化け物級だよね」  歩きながら気配を探る。  大丈夫。気付かれなかった。 「大丈夫だよ」 「え?」   要の顔をまじまじと見つめた。
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