1、深海でみる夢

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1、深海でみる夢

 要に腕を掴まれて、ライブハウスの入る雑居ビルを出た。  体がふわふわして、現実感がまるでなかった。たった一人で、深い、海の底にいるような気がしていた。 「約束だからね。将大さんの番が終わったら帰るって」  私に異存はなかった。でも、ずっと潜ったままでいたかったのに。  要の一言で、魔法は解けてしまった。    大阪ミナミの、派手なネオンライトや雑多な喧騒が蘇る。  受験生という現実がのしかかり、晩秋の夜の冷気が、ほてった頬を急速に冷ましてゆく。  ライブはまだ半分以上残っていた。  ライブハウスの何十周年だかの記念イベントで、将大は親しくしているオーナーから、直接声をかけられていた。  何人も出演するアーティストの一人で、殆どの客は有名なラッパーが目当てだったが、ソロになって、いきなりやって来たチャンスだった。 「将大さんからラインだ」  人混みの中、地下鉄の駅に向かって歩き始めようとしたとき、要が言った。  私のバッグの中からも振動が伝わる。
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