1、深海でみる夢

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「泣いてごめん」  今日は、将大の晴れ舞台だ。要が貸してくれたハンカチで、涙を拭う。 「私も、めっちゃ楽しかった。将大にい、おめでとう」 「ありがとうな、典ちゃん。勉強で忙しいのに、わざわざ来てくれて嬉しかったわ」 「そんなん、見逃せるわけないやん。勉強どころじゃないし」 「写真撮ろ。昨日ゆうてたやろ」  泣いたことを後悔しながらも嬉しかった。  昨夜電話で交わした短い会話の中で、写真が撮れればいいな、と言ったのを覚えていてくれたのだ。  将大が腕を伸ばして構えたスマートフォンに、三人仲良く収まった後、要が私と将大のツーショットを撮ってくれた。 「直にファンが大勢ついて、こんな風に話したりできなくなるんだろうなぁ」  何気なく言った要の言葉に、胸がぎゅっと締め付けられた。 「いやいや、まだまだや。でも頑張るわ」  照れたように笑う将大の背後で、「あれっ、ショータ!」と甲高い声が響いた。  露出の多い服で全身を固めた、派手な一団が突進してくる。
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