1、深海でみる夢

6/6
前へ
/127ページ
次へ
「バンドのファンの子らや」 「来てくれたん」と愛想よく手を振り、こちらを向いた。 「二人とも、今日はほんまありがとう。そうや、これ」  ポケットを探って幾つか飴玉を取り出すと、私と要にくれた。 「じゃ、俺たち帰ります」 「悪いけど、典ちゃんを頼んだで」 「責任もって、送り届けますよ」  手を振って別れた後、早速飴を口に放り込んで要が言った。 「大阪のギャルって怖いよね。なんか、人の心に土足で踏み込んで好き放題騒いだ上に、ゴミを散らかしたまま帰りそう」  私の気持ちを思いやってか、ぶるっと身震いまでしてみせた。 「典ちゃんがあんな服着たら、将大さん目の色変えて怒るよ、きっと」  将大がくれたパインアメをバッグにしまう。 「そうかな。大人に見えるんだったら、あんな服、着てみようかな」  胸の中のもやもやを吐き出すように言った。  五年の歳の差は、一体いつになれば埋まるのだろう。『妹』でいる限り、本当に望むものはもらえない。 「大人に見えるというより、寒いのか暑いのか分かんない感じがするね。やめときな」  そして歌うように付け加えた。 「典ちゃんは、自分が好きな服を着ればいいんだよ」
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加