2、顔のない女

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2、顔のない女

 地下鉄に乗って初めて、鈴がいないことに気付いた。  私たち双子に備わった頭の中の回線で、妹に呼びかける。 『私は最後まで聴いてから帰る。今、すごい盛り上がってるから。じゃっ』  ガチャンと電話を切るみたいに声が途切れた。  呆気に取られて、でも楽しんでいるならよかったと思い直した。最近は勉強ばかりで、あまり鈴に構ってあげられなかった。  京阪電車の途中の駅で、要はわざわざ特急から普通電車に乗り換えた。そして遠慮する私を押し切って、一緒にホームに降り立った。 「将大さんと約束したからね」  薄暗い階段を降り、改札を出た。 「すげぇ、駅の上を高速が走ってるんだ」  何か感想を言おうとして辺りを見回し、それ以外に言葉が見つからなかったようだ。  伏見区の街中でありながら無人駅で、ホームの真上を、名神高速道路が交差している。  ラッシュ時だけ賑わう駅前広場には、どこか投げやりな雰囲気が漂っていた。
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