3人が本棚に入れています
本棚に追加
二度目は、おととし。一会町で、珍しく大雪が降った日。
フィジカル激ツヨ霊能者・榊幽玄が、郷土資料館周りと駐車場の雪かきを手伝ってくれた。お礼に晩御飯に連れて行った時だ。
お礼、とは言ったが、雪に不慣れな他の職員たちに代わり幽玄と共に雪かきした、青瀬の方が疲れていた。あの時も、大粒の雪が降ってきて。
『疲れたよね』
『もう休もう』
休みたい、と思ったその時。
青瀬の目の前で、幽玄が何かを掴んだ。
「センセ、見えますか」
幽玄の手の中で牡丹雪が溶け、だが何か白っぽいものがモゾッと動く。
「弱いけど、こういうのはタチが悪いんです」
霊能者がそれを潰すと、声はしなくなった。
「雪に紛れて取り憑き、凍らせようとしてくる。耳を貸しちゃダメですよ」
※※※
一度目も、二度目も、偶然助けられた。
だが今回は。
『寂しいね』
周りには誰もいないし、玉環の家までまだ距離がある。
『つながろう』
また誰かが助けてくれる、と期待も出来ない。
『一緒にいようよ』
三度目。三度目なのだから。
「悪いね」
寒い中、どうにか笑顔を作り、呟く。
「一緒にはならないよ。僕は、今の暮らしが好きなんだ」
声が、止んだ。
ふう、と大きく息をつく。肩にかかる雪をほろい、歩き出した。
※※※
そのとき榊幽玄は、つまみ食いしようとする玉環から鍋を守っていたが、引き戸が開く音で玄関に飛んで行った。
「おかえりなさいセンセ、うわ! また雪ですか」
「ただいま」
頭やコートの雪を丁寧に落として、家に入る。
「このぶんだと、食後は雪かきだねえ」
「えー」
幽玄は嫌そうな顔をしたが、青瀬は朗らかだった。
言えた。やっと言えた。
寂しいことも、嫌になることもある。そして疲れ果てる。これはもう、変えられないだろう。
でもやっと、自分で、自分を救うことが出来た。今まで誰かに救ってもらえたように。
「センセ早く、じいさんが肉ぜんぶ食っちゃう」
「小僧の分くらいは残っとる」
「俺の分も残しとけよ!」
「ああ、いい匂い。榊くん、ご飯ありがとうね」
一触即発だが暖かな居間に、青瀬は笑顔で入って行った。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!