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青瀬陽は、車を降りて坂を登りだした。
八塚一の夜。降り出した雪が、景色を白く変えていく。
駐車場から、いま世話になってる玉環の家までは距離がある。普段は気にならないが、今日は特殊な事情で掛け持ちしている二つの職場…福島県と宮城県…を往復する羽目になり、流石に疲れた。
大粒の雪が、頭に肩にまとわりつく。
『寒いね』
声がした。
『寂しいね』
夜空を見上げると、大粒の雪が、声と共にゆっくり落ちてくる。
『誰かと繋がりたいね』
ああ、またか。
雪に誘惑されるのは、これで三度目だ。
※※※
最初は、大学生の頃。
トラブル続きなバイトの帰り、雪にも降られて。
やっと自分がやりたい学問を、転校もなしで出来る。そう思っていたが、人付き合いも碌に出来ないと厳しいのは、何処も同じだった。
一弘と陣内は何故か声をかけてくれるが、中学からの親友同士という二人だ、僕は別に居なくてもいい。
だけど。
『一緒にいましょう』
『私たちがいれば寂しくない』
『もう苦しくない』
やっと楽になれる。そう思えて。
と。
「何してんだバカ!」
背中を蹴られて、新雪の中に前のめりに突っ込んだ。
「…え?」
振り返ると、片足あげた一弘としゃがみこむ陣内がいた。
「こんなトコで座ってたら凍るだろうが! それでも道民か!」
「生きてんな、よし」
二人はホラー映画の夜間特別上映を見に行くところだったらしい。公園の真ん中で誰かが座り込んでるので、見たら知ってる顔だった、と。
「なぜ公園に?」
「…公園に行った覚えも、ないんだけど…」
「訳わかんねーことしやがって。おかげで映画行けなくなったじゃねーか!」
結局その日は居酒屋に連れて行かれて、暖かい店内で閉店まで飲み食いして、一弘には後々まで映画に行けなかったことをグチられた。
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