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「大地さんどうかしましたか? お味噌汁、薄かったですか?」
味噌汁が入った椀を持ったまま佐木を凝視していた貴島に、佐木が不安そうに訊ねる。
「いや、普通に美味ぇ」
そう言って貴島が再び手を動かすと、佐木は目に見えて嬉しそうな顔をした。
「それなら、良かったです」
照れ隠しなのか少し俯いて、手の中の味噌汁を箸で掻き混ぜる。
朝食を終えて貴島が身支度を整える間、佐木は朝食の後片付けをしていた。着替えを済ませ、キッチンを覗くと、食洗機をセットし終えた佐木がちょうど出てくるところだった。
「ちょっと早ぇけど、もう出とくか?」
「はい」
佐木がソファに掛けていたスーツの上着に袖を通す。腕時計を確認すると、時刻は十時過ぎだった。都内のスタジオまでは渋滞していても三十分程の距離だ。スタジオ入りの十一時までは充分な余裕を持って到着できるだろう。
玄関へ向かうと後ろから佐木が付いてくる。
「大地さん」
廊下の途中で呼び止められた。同時に微かに引かれる感触がして、振り向くとジャケットの裾を佐木が掴んでいた。
「……あの」
貴島が向き直ると、佐木は逃げるように視線を床へと落とした。
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