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「なんだよ」
「あと少し……、ほんの数分だけでいいので……ここにいてくれませんか?」
佐木は顔を俯けたままで、貴島はその表情を確かめることはできない。か細い声で、躊躇うように佐木は言葉を続けた。
「この部屋を出たら、俺はマネージャーにならないといけないから。あの、もちろん……マネージャーが嫌とかそういう意味ではないんです……その、大地さ……っ」
貴島は佐木の頤を掴んで、強引に顔を上げさせた。電気をつけていない薄暗い廊下ではその色味まではわからないが、貴島の指に触れる佐木の頬は熱かった。腰と後頭部に手を回して引き寄せる。
「ん、っ」
開いた唇に舌を差し入れて絡める。佐木の指が縋るようにぎゅっと貴島の腕を掴んだ。
貴島は佐木の形のいい上唇を吸い上げて、キスを解いた。
「……すみません」
佐木は顔を隠すように、貴島の鎖骨辺りに額をくっつけた。
「不謹慎ですよね。出勤前にこんな……。マネージャー失格です」
「今は違うんだろ?」
佐木の髪を撫でると、佐木は遠慮がちに貴島の背に腕を回した。柔らかな髪に鼻先を押し付けると、柑橘系の爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。貴島は目を閉じて、深く息を吸い込んだ。
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