208人が本棚に入れています
本棚に追加
ふと、綾奈の背後で、さりげなく扉へ向かっている佐木が貴島の目に留まる。視線に気付いた佐木が、はたと動きを止めて貴島を見た。
「少し、外に出てますね」
それは気を遣っての行動であることはすぐにわかったのに、貴島は面白くなかった。
「別に構わねえからいろよ」
ほんの少し不機嫌さを滲ませた声で呼び止めると、綾奈も佐木を振り返った。
「ごめんなさい佐木さん。うるさかったですよね?」
貴島への態度とは正反対に、綾奈は申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、そんなことは」
佐木は恐縮したように慌てて首を左右に振る。
「猫被ってんじゃねぇよ」
貴島に対する態度から豹変した綾奈に文句を言うと、綾奈は容赦なく貴島を睨み付ける。
「目には目をな性格なだけですぅー。私だってちゃんと尊敬できる目上の人にはそれ相応の態度取るわよ」
「へえ? お前佐木のこと尊敬してんの?」
「当たり前でしょ。大地のマネージャーさんってだけで既に尊敬の対象よ」
「おい、それどういう意味だ」
貴島の質問は綺麗に無視された。
「それにいつも笑顔で優しくて、この業界にいるのに全然穢れてない感じが凄い! もううちのマネージャーと取り替えたいわ」
「そういや今日はあの眼鏡どうした?」
「事務所で打ち合わせ」
綾奈は吐き捨てるように答えた。
最初のコメントを投稿しよう!