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綾奈のリクエストで、銀座にある創作洋食ダイニングへ向かった。その店は収録スタジオから車で二十分程の距離にあった。
佐木は人気のない裏通りに車を停車させた。目当ての店は少し入り組んだ場所にある。これ以上は車では進入できない。
綾奈が笑顔で佐木に礼を言って先に車を降りた。
「大地さん、明日は八時頃にお迎えに上がります」
貴島はそれに返事をして、自分も車を降りようとする。しかし話し足りない事柄があるように思い、動きを止めた。
「お前さ」
貴島は口にし掛けた言葉を唐突に切った。佐木は次の言葉を黙って待っている。貴島は誤魔化すように短く息を吐いた。
こんな風に自分が異性と過ごすことをなんとも思わないのか。そんな言葉を口にすれば、まるで嫉妬をして欲しいみたいだ。
恋人だからといって行動を制限されるのは貴島が嫌悪する関係だ。今まで交際してきた相手も何人かはそれが原因で駄目になった。未練は微塵もなかったと思う。束縛されるくらいなら特定の相手なんていらない。だから妬心なんて鬱陶しいとしか思ったことがない筈なのに。
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