ウタカタ 第2話

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ウタカタ 第2話

「お帰りなさい」  時刻は午前一時過ぎ。玄関のドアを開けると、物音に気付いた佐木が貴島を出迎えた。 「お帰りはもう少し遅くなるかと思ってました」  そう言って嬉しそうな顔をする佐木を見ていると、貴島の胸がちくりと痛む。 今日は久々の完全オフだった。佐木と部屋でゆっくり映画でも観る予定だったのに、貴島に突然予定が入ってしまった。  十代の頃の貴島は、長身を生かしてモデルとしての活動が主だった。現在は海外で活動しているその当時の友人が、突然来日して貴島に連絡を寄越してきたのだ。日中からあちこち連れ回され、夕方からは散々飲みまくり、相手が酔い潰れたので帰宅して今に至る。 「悪かったな、今日」 「そんなの、気にしないで下さい。俺もこの部屋でのんびりさせてもらいましたから」  恐縮する佐木がいじらしく思えて、貴島は手を伸ばした。佐木は大人しく貴島の腕に捕らわれる。 「……ん」  軽く唇を合わせながら、感触を確かめるように柔らかな双丘に手を這わす。 「大地さん、珍しく酔ってるでしょう?」  啄むだけのキスを繰り返す貴島に、佐木はされるがままになっている。 「あー、どうだろな」  貴島は上機嫌に答えて、からかうように佐木の唇を舐め上げた。  取り敢えずのビールから入り、相手の趣味でワインに移り、終盤は飲み比べと称してのテキーラ一気の応酬だった。何杯飲んだかは覚えていない。近年の中で一番の酒量であったのは確かだ。
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