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「大地さんがお酒を過ぎると……キス魔になる気がします」
照れたようなその言葉に、貴島ははたと動きを止めた。
「ンなこと初めて言われた」
完全に無意識の行動だ。
「大地さんが酔われることが滅多にないからじゃないですか?」
「……いや、そういや前はキス自体があんま好きじゃなかったな」
「そうなんですか?」
佐木は意外そうな顔をする。それもその筈だ。佐木に対しては、こういう関係になる以前ですら、冗談でキスを仕掛けていた貴島だ。説得力に欠ける言葉だろう。
「グロスってあんだろ? 女が口につけてるやつ」
「はい」
「見てる分にはエロくていいけど、あの感触がちょっとな」
そういう雰囲気の時に限って、女はテラテラと唇を光らせる。ばっちりメイクで気合いを入れてくれるのは男冥利に尽きるが、実際触れるとなると微妙だ。ねっとりとした感触を思い出したように顔をしかめる貴島に、佐木は苦笑をこぼした。
「だからキスした回数なら、もう既にお前が歴代一位かもな」
言いながら貴島は、再び佐木の柔らかい唇を啄む。
「なーに、ニヤけてんだよ」
僅かに色付いた佐木の頬を指でつついてちょっかいを掛ける。
「……に、にやけてません」
佐木は貴島の視線から逃げるように顔を背けた。貴島は佐木の顔を覗き込んでそれを追い掛ける。
「大地さん、お風呂! お風呂入れるようにしてありますよ」
佐木は思い出したようにそう言って、無言の追及から逃れようとする。
「一緒に入るか?」
貴島が投げ掛けた言葉に、佐木は息を呑む。
「なんだよ、嫌なのか?」
言葉もなく固まる佐木に、貴島は揶揄するように耳殻を食んだ。
「……やっぱり、酔ってますね」
からかわれてばかりなのが悔しいのか、どこか拗ねたようなその呟きがツボに入る。
貴島は佐木の腕を掴んで足早にバスルームへと向かった。
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