ウタカタ 第2話

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 自宅まで送り届けると言い張る佐木を、強引に助手席に押し込めて、ハンドルは貴島が握った。普段は先に貴島を部屋まで送ってから、佐木はそのままこの社用車で帰宅する。  運転席に座る貴島は、有無を言わさず自宅ではなく佐木の部屋へハンドルを切った。 「すみません、大地さんお疲れなのに」  隣で恐縮しきりの佐木の頭を、視線は前に向けたまま無言で掻き混ぜた。  佐木の家から自宅へはタクシーでも捕まえればいい。もしくは看病がてら、佐木の部屋に泊まろうか。そういえば自分は、大まかな場所は知っていても佐木の部屋へ入ったことがない。なんとなしにそんなことを考えていた時だった。  背後から派手な排気音が聞こえた。バックミラーで確認すると、極端に車高の低いシーマが、やたらと大きなエンジン音を響かせて猛然と迫ってくる。貴島が軽く舌打ちすると、背後の車は蛇行運転をし始めた。 「危ないですね」  佐木も背後の車が気になるのか、後ろを振り向く。  馬鹿な煽りに付き合うつもりはない。追い抜かすならとっととしろよと貴島が苛立った時、それが通じたようにシーマが加速する。貴島が運転するアルファードを左側から追い抜かして、黒い車体が前に出る。
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