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それは本当に一瞬の出来事だった。
ぐんぐんとスピードを上げていくシーマが突然不自然に左へ逸れたと思った途端、今度は右に曲がる。直後、劈くようなブレーキ音が響いた。目前で黒い物体が中央分離帯のガードレールに激突する。貴島は衝突音と同時に咄嗟にハンドルを左へ切りブレーキを踏んだ。――間に合わない。
「……っ!」
シーマとの距離は二十メートルもない。ガードレールにめり込んだ状態で停止したシーマの後ろに突っ込む。自分と、佐木が息を呑む音が聞こえて、衝撃にきつく目を閉じた。
「おいっ、大丈夫か?」
車が完全に停止してすぐに、隣の佐木を振り向いた。警報音が鳴り響く車内で、佐木は目も口も開けたまま貴島を見返す。何かを口にしようとしているのに、それが音にならない。それが佐木の受けたショックを物語っていた。
「佐木、しっかりしろ。大丈夫だから」
左手を伸ばして軽く佐木の頬を叩くと、鋭い痛みが貴島の脇腹に走った。
「大……地さん、怪我は……どこか怪我してませんか?」
僅かに正気付いた顔が慌てて訊ねてくる。
「ああ。お前は大丈夫だな?」
貴島の問い掛けに、微かに震えた声が返事をする。顔色は悪いが佐木に外傷は見られない。貴島はほっと安堵の息を吐いて、佐木を落ち着かせるように何度も柔らかく肩を叩いた。
幾分落ち着きを取り戻した佐木は、外の状況確認をしてすぐに救急車を手配した。
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