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半壊したシーマの運転手は全身骨折の重体だった。飲酒運転の末、ふざけたハンドリングをしていたところ操作を誤ったという点で、あまり同情はできなかったが、命に別条はないと聞いて佐木は心底ほっとしていた。貴島が運転していた車は、フロント部の運転席側がシーマの後ろに接触した状態で停止していた。エアバッグが機能した御陰で佐木は無傷。貴島は肋骨にひびが入っていた。
それでも翌日からの仕事は一つとして穴を開けることなくこなした。事件のことは各媒体で大きく報道されてしまい、行く先々で記者が詰め掛け、共演者やスタッフに心配された。
「俺は大したことないけど会社の車が駄目になった」と、派手にひび割れたフロントガラスや、半壊したボンネットの話で半ば笑い事にして切り返していたものの、三日も過ぎればいい加減鬱陶しくなってくる。
そして、事故がもたらした厄介事はそれだけではなかった。むしろこちらの方が事態は深刻だ。
事故以降、佐木の様子が目に見えておかしい。口数が少なく、時折何か思い詰めたような表情を見せることがある。最初は体調が悪いのを引きずっているのだと思い、「無理をするな」と注意した。しかしそれは改善するどころか日に日に悪化していく。笑顔はぎこちなく、常に緊張しているような雰囲気があった。
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