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「お前、なんかくだらねえこと考えてんじゃねえか?」
ドラマ撮影を終え、メイクを落として着替えも済ませると、煙草に手を伸ばすよりも先に、貴島は佐木の前に立った。ソファに座っていた佐木は、一瞬体を強張らせて、目の前の貴島を怯えたように見上げた。
「あの事故、自分の所為だとか思ってんじゃねえだろうな」
その言葉に反論の声はなかった。
図星かよ。黙り込んだ佐木に、貴島は内心で舌打ちした。
「お前な……、なんでそうなんだよ。あん時運転してたの俺だろ」
「だけど、俺が体調崩したりしていなければ、大地さんが運転することはなかったし、あの道を通ることもなかった」
「仮にそうだとしても、もう済んだことだろ? お前が気に病んだところで得することなんか一つもねえだろうが」
沈んだ佐木を浮上させたくて口を開いたのに、言葉を重ねる度にその表情が陰っていく。それがもどかしくて、貴島は佐木へと手を伸ばした。
「骨なんてすぐくっつく」
慰めるように頭を軽く撫でると、佐木は一瞬、泣きそうな表情をした。
「お前、明日一日休んでこい」
「……え」
佐木は驚愕に目を見開く。
「お前が必要ねえから言ってるんじゃねえ。必要だから言ってんだ。この意味わかるよな」
「大地さん、でも……」
「今のお前に付かれても迷惑だ。ちゃんとリセットしてこい」
見下ろす形できっぱり言い放つと、佐木は観念したように「わかりました」と答えた。言い付けを守った子供を褒めるように、佐木の髪をくしゃりと掻き混ぜた。
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