ウタカタ 第3話

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 しかしそんな事情も知らない世間は、交際説にヒートアップし、マスコミはどうあっても綾奈か貴島、どちらかの口から交際の事実を取ろうと躍起になった。どこへ行くにも張り付いてくる輩に対しては、鬱陶しいながらも無視を決め込めば済む。けれど公の場でも攻撃の手は緩まない。制作発表、イベントPR、舞台挨拶。そういった場では交際に関する質問はNGになっているものの、あからさまにこじつけてそれとわかるような質問を投げ込んでくる。「うるせぇな、黙れよ」で済ませたい気持ちを抑え込み、しらっとした態度でやり過ごすより他ない。 「早く沈静化すればいいですが、連ドラもオンエアが始まったばかりですし、当分は無理そうですね」  佐木は一連の騒動に困ったような顔でそう言いはしたが、事の詳細については何も訊ねてこない。もちろん不用意な貴島を責めたりもしなかった。貴島もまた、佐木に何も伝えていない。貴島にとって、綾奈はそういう対象ではないと弁明したことはないが、佐木は当然そのことを知っているだろうと思う。  だけどもし、貴島が預かり知らないところで佐木が他の人間と深夜食事に出掛けたとしたら。それがたとえ恋愛対象外の相手でも、不愉快さが滲んでくる自分は勝手だろうか。  そう思うと、本当に佐木は何も思うところがないのか、貴島は疑問に思えてならなかった。
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