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起床してリビングのTVを付けると、正にカメラに追い掛け回される自分が映る。貴島は舌打ちしながら即刻電源を落とした。普段ならありもしない事実を、まるでそれが真実かのように自信満々で伝える様が滑稽で、悪趣味ながらそれを嘲笑うくらいの余裕もあるが、今は苛立ってしょうがない。もしかしたら今も、マンションの前には記者が張り込んでいるかもしれない。
湧き上がる苛立ちに蓋をして、コーヒーを飲みながら支度を済ませると、出発時刻の十分前になっていた。
……おかしい。佐木はいつも迎えに来る三十分前には、貴島が起床しているかを確認する為に電話を入れてくる。しかし携帯端末を確認してみても、着信を示していない。着歴を開いて電話を掛けようと思ったのと同時に、手の中の端末が震えた。佐木からの着信だった。
「どうした? 今どこだ」
間髪いれず貴島が訊ねる。
『すみません、まだ自宅です。……ごめんなさい、今起きたところで……』
電話越しに聞こえる声は狼狽しきっていた。「とりあえず落ち着け」と伝えると、佐木は電話の向こうで謝罪を繰り返した。
佐木の自宅から貴島の部屋までは車で三十分弱。到着を待っていてはスタジオ入りの時間に間に合わない。
「俺は自分の車でスタジオ行くから、お前はタクってこい」
言いながら貴島はリビングのラックから愛車の鍵を取る。佐木に対して「遅れてもいいから絶対に慌ててくるな」と念押しして、貴島は通話を終えた。
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