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本日一本目の仕事である雑誌撮影用のメイク中に、佐木は到着した。
「申し訳ありませんでした」
メイクスタッフが退室して二人きりになったと同時に、佐木は土下座でもしそうな勢いで頭を下げた。貴島はそれに対して「ああ、気を付けろ」と答えただけだ。
そのままバタバタして会話らしい会話をせずスケジュールをこなす。
「どうして……怒らないんですか?」
佐木が暗い顔で貴島にそう訊ねてきたのは、連ドラの収録スタジオの楽屋だった。
「怒って欲しいのか?」
茶化す貴島に、佐木は戸惑ったような表情を浮かべる。
「別に俺が怒鳴らなくても、お前死にそうなくらい反省してるじゃねえか」
控え室や移動の車内。会話はしなくても、漂う空気から佐木が自分を責めていることは明白だった。
「でも……」
青白い顔をしかめる佐木に、貴島は短く息を吐いた。
「ここんとこお前が調子悪いのはわかってんだよ」
貴島はテーブルに行儀悪く腰掛けて煙草を銜えた。
「お前の仕事は俺をサポートすることだ。なのにそのお前がヘバってちゃ訳ない」
煙草に火をつけ吸い込んで、天井に向かって煙を吐き出す。
「けどお前は機械じゃない。完璧なんてある訳ねえ。調子が悪い時があって当たり前だろ」
佐木は部屋の隅に立ち竦んだまま、貴島を見つめていた。言葉を重ねても佐木の表情は強張ったままで、貴島の中で焦燥が募る。
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