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「でも、お酒に弱い御陰で安上がりですよ。ビール一本で夢も見ない程深く眠れるんです」
佐木は伏し目のまま、貴島を見ることなく自嘲するように笑った。静かな部屋の中に掛けるべき言葉を探していると、佐木はゆっくりと貴島を振り向いた。
「本当はいつも羨ましかったです。大地さんと一緒に楽しくお酒を飲める人たちが」
控え目に笑うその顔に、胸の奥が疼く。
「お前、さっきはなんも言わなかったけど、やっぱり俺と綾奈のこと気にしてたか?」
佐木は一瞬はっとして、やがて困惑したような表情を浮かべた。
「俺は大地さんの傍にいられるだけで、貴方に必要とされるだけで充分だと思っていました。だから貴方が他の女性と交際しても、何も言うつもりはありません」
佐木の言葉に、貴島は目を見開いた。
「信用する、しない以前の問題かよ」
静かな怒りがふつふつと沸いてくる。
佐木と今の関係になる以前の貴島の素行からすれば、浮気を疑われても仕方ないことかもしれない。けれど疑うも何も、佐木の中でそれは既に決定事項だった。プライドを崩して弁明していた自分が馬鹿らしく思えてくる。
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