208人が本棚に入れています
本棚に追加
/332ページ
「先日の綾奈さんとの報道を見て、これが本来の大地さんのあるべき姿なんじゃないかって……そう思ったんです」
「お前な……っ」
一気に膨れ上がった感情のまま、貴島は怒鳴り声を上げようとした。だけどそれができなくなる。佐木は貴島をじっと見つめたまま、はらはらと涙を流していた。
「やっぱり、俺なんかがこうして傍にいること自体、不自然ですよ」
その顔はなんの表情も浮かべておらず、ただ涙だけが音もなく流れ続ける。まるで佐木の心が壊れてしまったように思えて、貴島は思わず口を噤んでいた。
「俺は、自分が貴方に釣り合うとは思えない。……もう、終わりにしたいです」
静かに発せられた声に、貴島は短く息を吐き出す。怒りで上がっていたボルテージが、冷水を掛けられたように瞬時に下降した。
「それは、別れたいってことか？」
訊ねる声が僅かに掠れた。両手の指先がどうしてかちりっと痺れる。
貴島が口にした言葉に対する否定の声はいつまで経っても聞こえなかった。
最初のコメントを投稿しよう！