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「あれ、今日佐木さんは?」
ドラマ撮影スタジオ内、セットの隅で待機していると、スタジオ入りしてきた綾奈が訊ねる。
「体調悪いんでしばらく休みとってる」
「え、大丈夫? そんなひどいの?」
担当タレントが働いている状況で、マネージャーが『しばらく』休みを取ることが普通じゃないと理解している綾奈は、心配そうに表情を曇らせた。
「ああ、働きっぱなしだったからな。疲れが溜まってたんだろ。事故とか他のごたごたの処理で走り回らせちまったから」
それが事実なのに、心の中で違和感があった。まるで言い訳しているような気分になる。
「……そっか」
綾奈が小さく呟く。
「大地のマネージャーなんて想像しただけで大変そうだもんね」
しらっと憎まれ口を叩きながら、本当は綾奈が自分にも責任があるんじゃないかと気にしているのがわかった。証拠に貴島の視線から逃れるようにふっと顔を逸らす。貴島が口にした『他のごたごた』が、貴島と綾奈のスキャンダルを指していることを察しているのだろう。
「お前人のこと言えんのかよ。トラブルメーカーのくせして」
お前の所為じゃない、と言葉にすれば綾奈はきっと余計気にするだろう。だから貴島はいつも通りに綾奈の暴言を打ち返して顔をしかめる。
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