ウタカタ 第4話

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 コミュニケーション代わりの言葉の応酬の途切れ目で、綾奈は不意に真剣な顔をした。 「佐木さんにね、謝らないといけないことがあったの」 「は? なに」  綾奈は滲んだ怒りを吐き出すように息を吐いてから、口を開いた。 「なんかね、うちの眼鏡がグチグチ言ってたみたいなの。佐木さんに」  貴島は眉根に皺を寄せて続きを促す。 「私らの撮影中とかにね、『おたくのタレント管理はどうなってんだ』的な。そんなの関係ないっつーの、なんで佐木さんにいくかな。そもそも完全に棚上げだし八つ当たりじゃない」  頭きて思いっきりキレちゃったわよ、と息巻く綾奈の声を聞きながら、貴島の胸中は苦いもので満たされていった。そんな話は初耳だったし、佐木からそういった素振りを感じたこともない。もしかしたら同じような出来事は今までにもあったのかもしれない。原因になりそうな自分の言動になら、心当たりは痛い程にあった。  貴島と佐木の関係は、同性という枷以外にも、いくつも障害に囲まれている。……正確には佐木ばかりが割を食っている。貴島の派手な女性遍歴に公私共に気を揉ませ、少ない自由時間も交友関係にかまけてろくに時間を割いてやれない。芸能人という立場上、この関係は親しい者であっても口外できない。
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