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泣き声が次第に静かになり、貴島がその顔を覗き込むと佐木は泣き疲れたのか眠っていた。
「……ガキかよ」
言葉に反して貴島の口元は綻び、起こさないようにそっと抱き上げてベッドまで運んだ。
佐木が目を覚ましたのはそれから一時間程が経過してからだ。ソファの上で台本を読んでいた貴島は、慌てて飛び起きたような物音に、背後にあるベッドを振り返った。
「起きたか?」
貴島と目が合うと、状況を理解した佐木は少し照れくさそうに自分の目を擦り、髪の乱れを直した。
「大地さん。……帰ってしまったかと思いました」
ベッドを降り、佐木はソファへと近付いてくる。
「帰ってて欲しかったか?」
わざと意地悪を言うと、佐木はいじけたような表情を浮かべる。貴島が横にずれてソファの空いたスペースを手で叩くと、意図を察した佐木は貴島の隣に腰を下ろした。
「すみません、眠ってしまって……」
「別に」
貴島は読んでいた台本を閉じてテーブルに置いた。銜えていた煙草は一度深く吸い込み味わったあと、空き缶の中へ落とした。
「ビール、勝手にもらったぞ」
テーブルの上にはビールの缶が二つ並んでいた。一つは既に空で、灰皿と化している。
「はい。良ければ残りも全部飲んで下さい。やっぱり俺には苦くて……」
そう言って笑う佐木の表情には、以前のような陰りは見当たらなかった。
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