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「飲めねえ酒に縋るくらいなら、ちゃんと俺に話せよ」
今なら、打ち明けられず一人で抱え込んでいた佐木の気持ちが痛いくらいにわかる。だけど貴島は敢えて明るく、からかうように佐木の髪を掻き混ぜた。
「はい、ごめんなさい」
素直に謝罪をする佐木に、貴島はよくできました、と言うように頬に口付けを落とす。佐木はキスされた頬を手のひらで押さえて、恥ずかしそうに視線を泳がせた。戯れのキスにすら恥じらって見せる男が可愛いと思った。
「やっぱり俺は、大地さんと一緒にお酒を飲める方達が羨ましいと思います。自分がろくに飲めないことが残念だと……」
ビール缶に視線を向けた瞳が、少しだけ寂しそうに見えた。
「でも、だからといって大地さんにそういう場に出ることを控えて欲しいとはまったく思ってないんです。楽しいことを好きなだけして欲しいと思ってます。……ただ」
真剣な顔つきで自分を見上げた佐木の表情が、極端に小さくなった語尾と共に頼りないものに変わる。
「ただ?」
続きを促してもなかなか口を開かない。佐木は散々躊躇して、ようやく続きを口にした。
「たくさん飲んで、酔っ払った時は……俺のところに来て欲しいなって思います。他の人のもとへは行って欲しくないです」
言い終わると同時に、「ごめんなさい」と呟いて顔を俯ける。貴島はそんな佐木の頤を掴むと強引に顔を上げさせた。
「可愛いな、お前」
可哀相なくらい真っ赤になった佐木は羞恥と不安の入り混じった顔で貴島を見た。
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