ウタカタ 第5話

10/13

208人が本棚に入れています
本棚に追加
/332ページ
「お言葉に甘えて、これからも飲み歩くことにするけど、一つだけ」  貴島は色付いた頬に手を滑らせて、親指で涙袋を撫でた。 「俺はお前とこういう関係になってから他に誰とも寝てねえし、当分そういう予定もない」 「大地さん……」 「今は他の奴と寝る暇なんてあんなら、お前抱いてる」  佐木の瞳がみるみるうちに潤んでいく。言った言葉の照れ臭さもあり、貴島は佐木の頬を摘まむと軽く引っ張ってからかう。佐木は涙を滲ませながらはにかんだ。 「あの大地さん、お腹空いてませんか? 晩御飯食べてないですよね? 俺、何か作ります」  佐木がまだ少し赤い顔でふんわり微笑む。  確かに貴島は夕飯を摂っていないし、自分を労わる佐木の気持ちもありがたいと思う。だけど今は、それよりももっと欲しいものがある。 「いい」  貴島は立ち上がろうとする腕を掴んで留めた。佐木は少し驚いたような表情で貴島を見る。 「お前、頑張り過ぎんな」  貴島の言葉に、佐木は双眸を見開いた。 「お前が俺のこと考えてあれこれ世話焼いてくれんのはありがたいし、俺もお前に甘えっぱなしだ。けど、何もしなくても俺はお前がちゃんと必要だから」 「大……地さん」  貴島の言葉に、佐木は呆然として、やがて心底嬉しそうに笑った。貴島はそれに引き寄せられるように顔を寄せる。 「……ん、ぅ……っ」  唇を吸い上げ、舌で辿る。口内に侵入して、佐木を搦めとった。
/332ページ

最初のコメントを投稿しよう!

208人が本棚に入れています
本棚に追加