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ウタカタ エピローグ
カーテンを引いている為、室内は薄暗い。
貴島の自宅寝室の、黒いシーツの海の上。隣に眠っていた佐木がベッドから抜け出そうとする気配で貴島は目が覚めた。
「大地さん」
起き上がった佐木の手を掴み、貴島は強引に引き戻す。
「もう少し寝てろ」
寝起きで掠れた声で呟き、有無を言わさずその体を腕の中に抱き込んだ。
「お前復帰したばっかなんだから、もうちょっとのんびりしてろよ」
ましてや今は仕事ではなく、プライベートな時間だ。
一週間の休暇を取った佐木が現場に復帰したのはまだ昨日のことだ。
「そうはいきません。今日の仕事は長丁場ですし、いつ食事が摂れるかもわかりませんから。朝食くらいはきちんと食べて頂かないと」
佐木は貴島に向き合うと、ふわりと笑う。
「無理すんなって言ったろうが」
至近距離で軽く睨むと、佐木は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「無理じゃありませんよ。俺がしたくて、勝手にしてることですから」
佐木は手を伸ばすと、そっと貴島の頬を撫でる。起き抜けでヒゲでざらつく顎のラインも、愛おしそうに指で辿った。
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