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「大地さんが俺の作ったものを美味しいと言ってくれると、俺はとても幸せな気持ちになるんです。だからこれは自分の為でもあるんですよ」
佐木はそう言って、そっと貴島の髪に唇を寄せた。貴島はそんな仕草と言葉一つで反論できなくなる。
「大地さんはもう少し眠っていて下さいね」
貴島の腕をやんわり解かせて、佐木はベッドを下りた。貴島は複雑な気持ちでそれを見送る。
佐木が着ているのは暗い緑色のスウェットの上下。その足元はもう余分な布地を引き摺ってもいない。
再三貴島が、「自分の寝巻きを持ってきて置いておけ」と言っても佐木は実行に移さなかった。今ならそれが単に失念していたのではないと貴島にはわかる。佐木はこの部屋に居着くことに遠慮と躊躇いがあったのだろう。
佐木が今着ているスウェットは貴島が購入したものだ。昨晩泊まりにきた時に、「これお前用な」と貴島が差し出したら、佐木は驚いた顔をしてやがて笑って礼を言った。
ピッタリサイズのスウエットを着た佐木の背中を見つめながら、貴島は満足げな笑みを浮かべた。
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