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きっちり栄養バランスまで整えられた豪華な朝食を摂ってから、出掛ける準備を整える。
「もう出るか?」
「はい」
いつものように余裕を持って玄関に向かった。控え目な笑みを湛え、ぴんと背筋を張った佐木が自分の隣を歩く。傍らにその存在があることに、安心する己を貴島は自覚した。
「大地さん?」
不意に視線に気付いた佐木が、足を止めて問い掛ける。
「なあ、ちょっと充電させろよ」
「……え? っ、大地さん、駄目です」
顔を寄せた貴島の意図を察した佐木は、避けるように顔を逸らして貴島の体を押し返した。
「……ンだよ、嫌なのか」
貴島の脳裏に、以前あからさまに同様の行為を拒まれた記憶が甦る。まだ佐木の中にはあの時と同じ、割り切れない蟠りが残っているのだろうか。
すると佐木は照れくさそうな顔で貴島を上目遣いに見つめた。
「ごめんなさい、嫌な訳じゃないんです。ただ……」
貴島は軽く睨んで続きを促す。
「部屋を出る直前に大地さんとキスしたら……その日は仕事にならないので」
「は?」
意味がわからないという風に貴島は顔をしかめる。
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