ウタカタ エピローグ

3/4

208人が本棚に入れています
本棚に追加
/332ページ
 きっちり栄養バランスまで整えられた豪華な朝食を摂ってから、出掛ける準備を整える。 「もう出るか?」 「はい」  いつものように余裕を持って玄関に向かった。控え目な笑みを湛え、ぴんと背筋を張った佐木が自分の隣を歩く。傍らにその存在があることに、安心する己を貴島は自覚した。 「大地さん?」  不意に視線に気付いた佐木が、足を止めて問い掛ける。 「なあ、ちょっと充電させろよ」 「……え? っ、大地さん、駄目です」  顔を寄せた貴島の意図を察した佐木は、避けるように顔を逸らして貴島の体を押し返した。 「……ンだよ、嫌なのか」  貴島の脳裏に、以前あからさまに同様の行為を拒まれた記憶が甦る。まだ佐木の中にはあの時と同じ、割り切れない蟠りが残っているのだろうか。  すると佐木は照れくさそうな顔で貴島を上目遣いに見つめた。 「ごめんなさい、嫌な訳じゃないんです。ただ……」  貴島は軽く睨んで続きを促す。 「部屋を出る直前に大地さんとキスしたら……その日は仕事にならないので」 「は?」  意味がわからないという風に貴島は顔をしかめる。
/332ページ

最初のコメントを投稿しよう!

208人が本棚に入れています
本棚に追加