フシダラ 第1話

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フシダラ 第1話

 一面に敷き詰められた玉砂利に、小気味よい音を響かせる添水や、年季を感じさせる石灯篭。色付いた紅葉の葉が、夜風に揺られ落ちる。宵闇の中で控え目の照明に映し出される庭園は、思わず足を止めたくなる景観だ。しかし今は人を待たせている。佐木孝平は左腕の時計に目をやった。待ち合わせの時刻まではあと十分程あるが、先方は既に着いているという話だ。悠長にしてはいられない。後ろを振り返ると、佐木同様に庭が気になるのか、貴島大地が風流な秋の景色に視線を注いでいる。 「大地さん」  呼び掛けると貴島はすぐに前を向く。貴島がちゃんと自分の後ろをついてきているのを確かめた佐木は、案内の仲居の後ろに続いて石畳を歩いた。  通されたのは茶室風の離れだった。 「お待たせして申し訳ありません」  佐木は一礼して入室する。入口から一番近い席に座っていた男は、にっこり笑うと立ち上がった。佐木はまず、その背の高さに驚いた。この部屋自体が天井の低いつくりの所為か、余計に大柄に感じる。日常生活では滅多に出会わない長身。そう、丁度貴島くらいの身長だ。男は大きな体を窮屈そうに折り曲げると、もう一度にっこりと笑う。
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