フシダラ 第1話

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「あーっと、ごめんなさい。実は下戸なんですよ、僕」  九鬼は両手を振って佐木のお酌を断った。 「そうなんですか。それは失礼しました」 「いやいや。というか気を遣ってもらわなくて大丈夫ですよ。こっちが無理を言ってお呼び立てしてる立場だから」  佐木ばかりに向いていた視線が、ちらりと貴島を見る。 「貴島くんと佐木さんは僕に気にせずやって下さいね。こちらはいいお酒たくさん置いてるそうですから」  九鬼はお酒のリストが書かれたメニューを貴島に差し出す。貴島は、「どうも」と答えてそれを受け取った。  九鬼から連絡があったのは一月程前のこと。『映画出演依頼の件で話したいことがあるから、時間をもらえないか』という。監督、しかも九鬼のような人気のある有名監督が、直々にオファーの話というのはとても稀だ。しかもまだ肝心の作品については何も聞かされていない状況だった。本来ならば作品や役柄の概要を添えた上で話が来るものだ。 「単刀直入に言うと、これはオファーというか、依頼前の確認作業なんだよね」  話が仕事の内容に及んだ瞬間、九鬼の口調と雰囲気が変わる。
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