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「今度僕が撮る映画の主演を貴島くんにお願いしたいってことになってるんだけども、ぶっちゃけそれは僕の意向じゃない」
九鬼のセリフに、佐木は身構えた。言葉を飾り立てるのをやめたように、九鬼は自らの内心も取り繕うつもりはないのだろう。たとえそれが初対面の相手だろうが、人気俳優だろうが。
「君を使いたがってるのはスポンサーね、正直僕はあんまり乗り気じゃない」
九鬼はそう言ってから、「ああ、気を悪くしたなら申し訳ない」と付け足したが、その表情は少しも申し訳なさそうには見えない。
「君がブレイクした切っ掛けの『夜桜』観たよ。すっごくハマリ役だったよね。殺陣も見事だった」
手放しの賞賛のような言葉は、何故か褒めているようには聞こえなかった。
「そのあと出てた連ドラも観て、初主演映画を観て、それ以降の君の出演作は観てない」
隣の貴島がぴくりと反応するのを佐木は感じた。
「確かに君はオーラあるし、イケメンだし、色気もある。けどね、それだけなんだよね」
どこか白けたような声に、佐木の中で反発心が湧き出てくる。「お言葉ですが」と発しそうになるのをぐっと堪えた。
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