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「生意気で、でも憎めなくて。クールでいい意味での威圧感がある。でもさ、今までやってきた役全部似たり寄ったりじゃない?」
九鬼はそう言うと、綺麗に盛り付けられたあん肝豆腐を美味しそうに頬張る。それを嚥下すると再び話し始めた。
「こればっかりは君の所為って訳じゃないけどね。だって視聴者がそれを求めるんだもん。んで、求められるままの『貴島大地』をマスメディア側が提供し続けるんだから必然とそうなる」
これ、美味しいよ? と九鬼は佐木に勧めるが、佐木の箸は完全に止まっていた。とても暢気に食事をする気にはなれない。
「でもね、そんな風にワンパターン化しちゃうと飽きられたら一瞬で終わるよ」
九鬼が箸を置く音が、妙に大きく部屋に響いた。
「あとになって気付いても大体手遅れ。演技もイメージも凝り固まってどうにもならない。慌てて幅拡げようとしても、ブレてると判断されて落ち目のレッテル貼られるだけ」
九鬼の言葉は充分な説得力と現実味を帯びていた。恐らくは、何人もそういう役者を目の前で見てきたのだろう。
「そうなると最後はあれだね。そういや昔、あんな人もいたっけな? くらいに人々の思い出になって、本人は細々と舞台の端役で食いつなぐだけ」
そこで一気に貴島から怒りのオーラが噴出されるのを感じた。佐木は咄嗟に隣を振り向いたが、何かを言う前に目の前の男が話を続けた。
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