フシダラ 第2話

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 事務所の力はそれ程強くはないが、バーターで押し込めば仕事を取れなくはない。だけど佐木は、今焦っておざなりな作品の端役を数こなすのは、貴島の為にならないと思った。それより今は来るべき時に備えて力を蓄える時だ。 貴島は最初こそ不貞腐れて自棄気味な雰囲気があったが、結局は素直に佐木の提案を受け入れた。多いとは言えない仕事の合間に運転免許を取得し、英会話も学んだ。感性や表現力を磨く為に舞台に足を運び、新旧問わず多くの映画作品を鑑賞した。佐木が何冊か本を勧めると、貴島はすぐに読破して、「他にも面白いの教えろ」と自ら申し出る程だった。その年が開けてすぐに舞台の出演が決まり、そうこうしているうちに『夜桜』のプロモーション活動も始まった。予告編が解禁になると同時に、来期のドラマ出演の依頼が舞い込み、それが怒涛の日々の開始位置になった。  ブレークしてからまだ二年も経っていないが、その間貴島は数々のドラマや映画に出演してきた。貴島はそういう姿を人に見せるのを嫌うが、出演作の予習をして、役のイメージ作りをしていることを佐木は知っている。貴島の部屋に出入りするようになって、使われていない部屋の奥に出演作の原作本や関連の書籍、映像ソフトを見つけた。台本を読み込み、セリフを暗記するだけでも大変だろうに、少ない自由時間でそこまでしていたことを知った時、佐木は貴島に対して尊敬の念を強く抱いた。  貴島には間違いなく、生まれ持ってのセンスやオーラがあると佐木は思っている。だけどそれだけではない。向上心が強く、自分に厳しい努力家。そんな男に恥じないような高い意識を持とうと、佐木は日々自分に言い聞かせている。
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