フシダラ 第2話

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「お前はあいつの言ったこと、どう思う」  画面に視線を向けたまま貴島が訊ねる。あいつ、とは九鬼のことだろう。九鬼の貴島に対する評価、態度。そして、今このオファーが貴島にとって必要かどうか。貴島同様、佐木もこの数日間ずっと考えていた。 「そうですね……確かに、大地さんが今まで演じてきた役柄は貴方の本質に近いものばかりだと思います」  九鬼の言うように、大きな括りでは、同じようなキャラクターだと言わざるをえないのは事実だ。 「だけど俺は役柄ごとにそれぞれ違った表現がされていたと思います」  志士のうちに秘めた情熱、ホストの愛への渇望、料理人の仕事に対する誇り、刑事の孤独。どれも感情を表に出さないキャラクターばかりだからこそ、セリフの間の取り方、声音。仕草や目線で心情が表現されていた。 「俺は九鬼さんの言葉に大地さんが思い悩む必要はないと思っています」  大きすぎる変化は必ずしも成長へ繋がっているとは限らない。そんな懸念も少しあった。本来の貴島と真逆の役を演じることで、視界が大きく広がるかもしれない。だけど少しずつ貴島が進んできた場所が、わからなくなる程の方向転換だったとしたら。それこそ『ブレる』ことだと佐木は感じた。 「でも、個人的には大地さんの『美山』がどんな風になるのか見てみたいです」  佐木は少しだけ表情を和らげた。これはマネージャーとしての言葉ではなく、一ファンとしての意見だった。
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