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「そういや俺のこともずっと『貴島さん』って呼んでたな、最初」
『貴島さん』が『大地さん』に変わったのはいつ頃だっただろうか。確か貴島が呼び方にクレームを付けたのが最初だった。
『お前さ、その貴島さんってのやめろ。なんか気持ち悪ぃだろ、お前のが年上なのに』
突然のことに、佐木は慌てて頭を捻った。
『それじゃあ……大地さん?』
訊ねるように呼び掛けると、貴島は驚いたような顔をした。
『そう来るか……』
『え、すみません、俺何か変なこと言いましたか?』
『変っつーか、普通なら敬称取るとか変えるとかだろ』
言われて佐木は、確かにそうだと思った。見当違いなことを言ってしまった自分が恥ずかしくて赤面した。
『ごめんなさい』
耳まで真っ赤になった佐木に、貴島は噴き出した。
『いや、いいわ、それで』
困惑した表情で貴島を見つめていると、『お前やっぱちょっと天然だな』とからかわれた。ついでに敬語もいらないと言われたが、それはどうしても抜けず謝罪すると、『ポイからいいわ』と笑われた。
そんな出来事を思い出して、佐木は照れ臭いような懐かしいような気分になった。
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