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この一ヶ月で、貴島は役柄に合わせて、十五キロ近く体重を落とした。他の作品との兼ね合いもある為、体型調整に取れる時間は少なかった。過酷な減量に、貴島の体調が心配でならなかったが、貴島は期間内に見事目標体重へ到達してみせた。
座敷の隅で他の出演俳優のマネージャー達と会話していた佐木は、部屋の中央に座る貴島をちらりと盗み見た。シャープになった頬が、少しやつれたような雰囲気を醸し出している。自分が貴島にしてあげられることはとても少ない。今回の件で佐木はそれを痛感した。貴島が食事制限をしている間、佐木はとてもじゃないが自分だけがお腹いっぱい食べる気にはなれなかった。その分体重は二キロ減った。
「アンニュイな顔して、どうしたの?」
突然横から掛けられた声に、佐木は慌てて遠くに飛ばしていた意識を引き戻した。
「九鬼さん、お疲れ様です」
いつの間にか隣に来ていた九鬼は「お疲れー」と笑う。
「佐木くんて仕事の席では飲まないようにしてる人?」
九鬼は佐木の前に置かれたウーロン茶のグラスを指差した。
「実は、僕も殆ど飲めないんです」
「へえ、そーなんだ。じゃあ下戸同盟だね」
笑顔の九鬼につられるように佐木も表情を崩す。
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