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「どうせ、だ~れも相手にしてくんないんだから、佐木くんが僕の相手してね。君、生け贄だから」
九鬼は再び大きな声で笑った。九鬼の笑いが収まった頃に、注文していたデザートが運ばれてきた。
「冗談はさておき、貴島くんがいい空気作ってくれてるからね。僕の出番はなし」
九鬼から出た、貴島を褒めるような言葉に、佐木の口元が思わず弛んでしまう。
「体もだいぶ絞ってきてくれたし。ま、取り敢えずは合格点をあげよう」
九鬼は腕組みをして高圧的なポーズを取ると、おどけたような顔をした。九鬼と会話したのはまだほんの少しの時間だけど、表情がくるくる変わる。それに振り回されているような感覚なのに、不思議と不快さは感じない。
「時に佐木くん、彼女はいるの?」
突然振られた話題に、佐木は目を丸くする。
「いません」
彼女、ならいない。『恋人』と訊かれなくてよかったと佐木は内心ほっと息を吐いた。『恋人は?』と訊ねられたところで、「いない」と答えていただろうけど。できれば嘘なんて吐きたくない。大切なものを守る為とはいえ嘘を吐く時は心がちくりと痛む。
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