フシダラ 第3話

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「じゃ、彼氏は?」  続いた質問に佐木は驚愕の表情で動きを止めた。九鬼は硬直した佐木の右手を掴むと、大口を開けて顔を寄せた。 「……あ」 「へっへー、隙あり」  すぐに解放された右手を見ると、フォークの上に載っていたチーズケーキが姿を消していた。 「実はチーズケーキも気になってたんだよねえ。ごちそう様」  したり顔の九鬼を、佐木は呆然と見つめたあと、それでもやはり笑ってしまった。  こだわりが強く、他の意見を寄せ付けない。スタッフ使いが荒い。現場では鬼。大御所だろうが人気俳優だろうが、躊躇いなく文句を付ける。以前聞いていた九鬼の噂を思い出す。中にはその華々しい経歴に対する嫉みもあってか、九鬼をあからさまに悪く言う声もあった。けれど佐木は、九鬼に悪い印象は持てなかった。その天真爛漫さは、たとえ振り回されても、許してしまう魅力があるように思えた。
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