フシダラ 第3話

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 八月も半分を過ぎた頃、一堂に会して、【白亞の欠片】制作発表会見が行われた。貴島と七原という人気俳優同士の初共演、しかも九鬼の監督作品ということもあり、百近い媒体が会場に詰め掛けた。  情報が解禁されるや否や、その過激な設定に世間は騒然となった。まだ撮影も始まっていない状況で、既に原作本が飛ぶように売れ、書店では品切れが続出した。  九月。高まっていく世間の期待を肌に感じながら、【白亞の欠片】はクランクインした。撮影期間中は、あらかじめ他の仕事をなるべく入れないようにして、貴島がこの現場に集中できるように調整した。衣装の背広を着た貴島の背中を見ると、痩せたのがはっきりとわかる。 「だからー、違うって。美山が早苗に感じてるのは『哀れみ』とか『蔑み』でしょうが。君のは『傲慢』なんだよねぇ」  都内のスタジオで朝から開始された撮影は、既に五時間程が経過していたが、常に九鬼の声が飛んでいる状態だ。それは八割貴島に対するものだった。 「うーん。違うなぁ、ちょっと一回リセットしようか」  九鬼のその言葉で、一度休憩を挟むことになった。貴島は無言で九鬼の横を通り過ぎ、スタジオの外へと向かう。佐木はそれを追い掛けようとしたが、今は一人にした方がいいのかもしれないと躊躇っているうちに、九鬼が話し掛けてきた。
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