フシダラ 第3話

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◇ ◇ ◇  昼下がりの単行列車の中には、柔らかな日差しが差し込んでいた。家族連れや、若い男女、幼い赤子を抱いた母親。長閑な光景の中で、きっと私だけが異物だろう。喪服を身に着け、膝の上には風呂敷包み。自然と私の周りには誰も座らなかった。  膝の上に載っているのは恋人の早苗。いや、恋人だった物だ。壺の中に収まっているのはただの骨で、彼女の魂は既にこの世のどこにもない。一週間前、彼女は交通事故に遭い、帰らぬ人となった。  早苗は生前、私という人格を疑うことはなく、ただひたすら愛してくれた。雛の刷り込みのような一途な想い。飯事のような生活に幸福そうに笑う彼女を可愛らしいと思うこともあった。それが愛情なのかもしれないと、期待のような感情を抱き始めた頃、事故は起こった。早苗が私のもとへきてから半年が経っていた。  自分の部屋に誰の気配もないことに違和感を覚える。しかし、ただそれだけだった。激しい喪失感も、身を切るような悲しみも私の心に湧き出ることはなかった。職場の同僚や、近所の者達、葬儀屋の業者。彼女とは殆ど関係のない人間ばかりが痛ましい顔をするのが、疑問に思えてならない。
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