フシダラ 第4話

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 用意された部屋は、リビングや簡易キッチン、大きな浴槽がついており、二階がベッドルームになっていた。到着するなり、貴島は皺一つないシーツの上に倒れ込んだ。長時間の移動に加え、昨夜遅くまで雑誌の撮影をしていた。にもかかわらず、今朝都内を出発したのは早朝の五時だ。疲れは相当なものだろう。曲がりくねった山道での走行は車内が大きく揺れ、ろくに眠れなかった様子だった。 「時間が来たら起こしますから、少しだけでも眠って下さい」  貴島と自分の荷物をクローゼットにしまいながら、佐木は声を掛ける。貴島からは唸りのような声が聞こえた。与えられた休憩時間は三十分と長くはないが、ベッドの上で眠れれば少しはマシかもしれない。しかし、部屋に入って十分が経った頃、インターホンが鳴った。佐木が出ると、若い監督助手が立っていた。運よく天候がシーン通りのものになってきた為、変わらないうちに急ぎで撮影をしてしまいたいとのことだった。佐木は了承の返事をして、二階に上がる。躊躇う気持ちになんとか蓋をして、貴島を揺すり起こした。貴島はだるそうに目を開けつつも、すぐに体を起こした。申し訳なさそうに事情を説明すると、貴島は佐木の頭をくしゃりと撫でて「平気だ」と言った。  二人で玄関に向かい、外に出る直前で貴島は足を止めた。何事かと思う前に、貴島は佐木の肩を掴み、身を屈めた。 「っ、ん、大地さ……、駄目で、す」  言葉では咎めながらも、貴島との久々の接触に、佐木の声は甘くなる。唇を舐め、絡めた舌を軽く吸ってから貴島は佐木を解放した。 「しばらくはお預けだから、補給だ」  からかうような声に、佐木の顔が火照る。 「今日から他の男と浮気するけど、妬くなよ」  意地悪な視線が、佐木をくすぐる。 「妬きません」  赤い頬で拗ねたように呟くと、また頭を撫でられた。
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